まちの未来をみんなでつくる「日野地域未来ビジョン2030」
東京都(島しょ部を除く)のほぼ中央に位置する日野市。多摩モノレールやJR中央線、京王線など、交通の便が良く、多摩川や浅川の清流、用水路、湧水などの水辺のある風景が印象的な街です。また、多摩動物公園や新選組のふるさととしても有名ですね。
日野市は、2019年に東京都で初めてSDGs未来都市として認定され、持続可能な地域づくりを推進するために、さまざまな取り組みを行っています。
そんな日野市が「日野地域未来ビジョン2030」というコンセプトブックを発行し、「ヒノタネプロジェクト」として地域のさまざまな人が関わるワークショップなどを行っています。
今回は、ビジョンの策定やプロジェクトの運営に関わっている方々に話を伺いました。
目次
お話を伺ったのは、日野市役所 企画部企画経営課 戦略係の藤田さんと森脇さんです。お二人は、ビジョン策定段階から関わり、ビジョンの推進に向けて、様々な活動に取り組んでいます。
ビジョン策定の経緯や現在行っている活動についてお聞きしました。
日野地域未来ビジョン2030ができるまで
-ビジョン策定の背景やこの「日野地域未来ビジョン」がどのようなものなのか教えてください。
これまで、日野市の総合計画は、市役所がどのようなことを行っていくかをまとめた長期計画として整えられてきました。ですが、社会や経済などの環境の急速な変化に対しては、行政単体で対応することが難しくなっていると感じられています。
また、人口減少が進むという見通しもある中で、今後どのような長期計画を策定していくべきかが問われていました。
行政だけでなく住民や地域に関わる人々が参加し、共通の課題や目標を共有することで、地域全体が一丸となって取り組むことが必要なのではないか。 これまで関わってこなかった人や組織にも地域全体で目指すべきビジョンを共有し、各々が持つ能力を活かして取り組んでいくのがよいのではないか。 このような考えから「地域全体で目指せるビジョンを作ろう」と始めたものが「日野地域未来ビジョン」です。
2022年9月から、2030年の地域のビジョンを策定する「ヒノタネプロジェクト」を始動し、市民向けと職員向けのヒノタネミーティングというものを同時進行で進めました。ヒノタネミーティングでは、「2030年の日野市はどんな姿になって欲しいですか」という問いかけをもとに、日野市に関わる様々な方々と対話し、コンセプトブックにあるような2030年に咲かせたい花という形で、29個の花を作成しました。 これはあくまでも2023年の姿で、社会や環境の変化に応じて、このビジョン自体も姿を変えていくということも織り込んだ形ですすめています。 ビジョンの作成過程でも、生成AIの普及などの急速な変化に柔軟に対応しながら、進めることを意識しています。ですので、現時点ではこのような形になっていますが、現在進行形で形が変わっていくかもしれません。
-ビジョンをこんな形にするといったゴールはあるんでしょうか。
ゴールというよりは今、どんなことを始めるかということにフォーカスしてます。 今自分がやることが、ちゃんと目指したい方向に繋がっているんだなと実感してもらいながら、昨日までとは違うことを始めたいとポジティブに考えてもらえるように、コンセプトブックも作成しています。
👀 編集部から見た、ここがすごい!
日野地域未来ビジョン2030 コンセプトブック
コンセプトブックでは、2030年に実現したいたくさんの日野市の未来像が掲載されているだけでなく、「17の問い」をヒントに、自分の暮らしの中からはじめられるアクションを考えたり、共有することができるようになっています。
みんなでつくるビジョンとはどんなもの?
-コンセプトブックには、タネから花を育てていく様子が描かれています。 この部分について、詳しく教えてもらえますか。
みなさん、少なからず、こうありたいとかこうなっていたらいいなという思いを持っていると思います。そんなみなさん一人ひとりの思いが「タネ」です。 ひとりではなくみんなが、それぞれの立場でどんなことができるか――例えば市の職員ならこういうことができるとか、市内勤務の方ならこんなことができるといったことを考えながらタネを育てあい、大きな花を咲かせていく様子をビジョンの全体図として表現しています。
-さまざまな人の思いであるタネは、どのように集めていったのでしょうか。
2022年9月から、ビジョン策定のプロジェクト「ヒノタネプロジェクト」が始まりました。1回目は商業施設のホールを丸一日貸し切り、タウンミーティングを開催し、日野市のこれまでの100年をまとめた「100年年表」を展示したり、現状の日野市が抱える課題を紹介しました。
100年年表は、未来を考えるために過去から現在に至る日野市の状況を知ることができるようパネルで展示したものです。さまざまな方にご参加いただき、2030年の日野市がどうなっていてほしいかを付箋に書いてもらい、その思いを聞きました。
中学生や高校生の方々には、グループで集まって日野市の未来について一緒に考えるグループワークも実施し、参加した中学生からは「地域に出てそういう話をする機会がないので、すごくよい機会になった」という声もありました。
PDFはこちら。
日野100年年表 (PDF 2.2MB)
当日のガイドツアーが、youtubeから閲覧することができます。
そのあとも、タウンミーティングで様々な方の思いを伺って、自分ならその思いに対してどんな行動ができるかなということもワークショップの中で考えていただきました。 他にも子育てしているママさんが集まっている場所や、高齢者サロンなどへ赴き、集まりの場に参加できない方々の思いも伺ってきました。
試行錯誤しながら進めていったプロジェクト
–地域の方に対して、プロジェクトはどのように進めていったのですか。
一番最初は、「日野ってどんなまちになったらいいのかな?」とか、「2030年に日野がどうなっていたいか?」について、みなさんの思いをまとめていきました。そのあと行政職員側でも市民の思いを共有し、職員と市民が同じテーマで話し合う場合、どのようなテーマが適切かを話し合いました。地域に関わりのある方と職員のそれぞれがどんな結果になったかっていうのを共有しながら、次はどのようなテーマで話し合うかを決めていきました。
どのような流れでやるか最初から決まっていたわけではなくて、それぞれの思いを聞きながら、じゃあ次はこんなテーマでやってみようと決めながら、プロジェクトが進んでいきました。
👀 編集部から見た、ここがすごい!
ヒノタネプロジェクトの経緯がまとめられた資料(Miro)
プロジェクトが時系列でまとめられ、未来ビジョンがどのように生まれていったのかわかりやすくまとめられています。
※パスワード:hino2030
タウンミーティングを重ねて、最初にできた27個のコンセプト案とそれを実現するために必要な行動を考えるきっかけとなる「問い」が生まれ、ともにブラッシュアップされていく様子が資料から伺えます。 コンセプトブックには、「こうなっていたい」という未来の日野の姿や実現するにあたって自分にできることを考えるきっかけになる「問い」と、行動する際に共有したい「行動指針」がまとめられて、2030年に向けて、自分がしたいことや行動を考えることができるようになっています。
- 29の花から選ぶ。もしくは自分で考える
- 17個の問いから興味あるものを選ぶ
- 5つの行動指針をヒントに問いに対するアクションを考える
ヒノタネプロジェクトのこれから
-現在はどのような活動をされているのですか。
はい。まず、庁内向けのワークショップを実施しました。 作成したビジョンを使いながら、自分たちの事業について、このビジョンの流れに沿って見直してみようですとか、自分たちの仕事ってどういうところを目指してるんだっけというような、未来に向かっていくために今何かやってるんだよね、というような考えを職員に持ってもらえることを目指しました。
市民の方へのアプローチも、試行錯誤しながらですが始めています。コンセプトブックを使いながら、自分が何をしたいのかを見つめ直していただくところからスタートして、地域が目指した方向とどういうところが重なるかや、今足りていないところはどこだろう?と、明日からのアクションを考えていただいています。
ワークショップの開催時には、日野地域未来ビジョン2030のマンガ版もお披露目されました。
💡ストーリーブックについて
2030年に20歳になる世代には、現在の中学生が該当します。
未来の中心となる中学生にも読んでいただけるように説明的な内容にはせず、ストーリー性を持たせました。明日から何か新しいことに挑戦してみようかなとか、自分が好きなことを好きだと言うことは悪いことではないということをストーリーの中で自然に感じてもらえるようにしたいと考えて作っています。
そのため、市内在住のマンガ家である白瀬さんにご協力いただき、作成しました。
新しい形のワークショップも
これまでのワークショップが進化した形で、「未来ストーリーデザイナー養成講座」という新しい取り組みを始めています。 半分手探りで始めた部分もあるんですが、コンセプトブックを使って、自分が将来目指したいところとか、明日起こしたいアクションなどを考えていくようなワークショップです。 行政がセッティングするだけではなく、市民の方や市内の大学や会社に通っている方などに、それぞれの場所・仲間内などで、未来について考えていく場を実際に作っていっていただけないかと考えました。
このような場を作っていただける方を「未来ストーリーデザイナー」と定義し、行動を起こして、周りの人に波及させていくことができる人をまちに増やしていけないかなという思いで、始めています。
最後にプロジェクトへの思いをお聞きしました
-プロジェクトに関わってみて感じたことや、今後の活動などについて教えてください。
藤田さん
私は策定の途中から関わりましたが、最初はこんな感じで進めているんだという驚きや新鮮さがありました。
みなさんのお話を聞き、対話する中で、それぞれの立場で未来のことを考えておられることなど、初めてわかることがたくさんありました。そういうきっかけを持てたこと自体が、とてもありがたい経験だと思っています。 これまで喋ったことのない人と喋る機会は減ってきていると思いますので、コンセプトブックの5つの行動指針の中にもある「ごちゃまぜの場を増やす」とか「未知をおもしろがる」とか、これまでコミュニケーションを取ったことがない人とそういう気持ちでコミュニケーションをとっていく大切さを、このビジョンを作っていく過程で、強く実感し理解できたことはかなり大きかったと思います。
まずは、いったん喋ってみることが大事。喋らないと、何となくイメージだけで相手のことを考えると思うんです。喋ってみると、意外とこんな人だったんだなというのがあると思うので、喋らないともったいないと思いますし、イメージだけだとズレが生じると感じています。
今後ビジョンを推進していく中でも、対話をどのように作っていけるのか。しあわせのタネを育てあう日野を目指すにあたって、持ち場がバラバラにみえる人でも、意外と同じ方向を向いてるんだねと実感できるような、年齢や立場がバラバラな人たちが一緒になってやってみようかと思えるような場や空気を、どうやったら作れるんだろうなっていうのを考え続けることにもとても価値があると考えています。
森脇さん
私は以前、市民部の窓口を担当していました。以前の業務では感謝されることもあったのですが、厳しいご意見をいただくこともよくあったので、市民の方は日野のことを好きではないのだろうなと勝手に思っていましたが、策定プロジェクトに関わってから、日野の方は、実際には日野のことを好きなのだと知ることができ、とてもポジティブな気持ちになれました。 また、策定プロジェクトでは市内の様々な場所にお伺いし、対話する機会が多かったのですが、日野市のことを改めて知ることができ、とても良い経験ができたと思っています。 今回の策定プロジェクトに関わって、日野の市民の方と対話することや、地域にでかけていくことがすごく楽しいと感じるようになり、自分自身が変わっていくのを実感しています。
今は答えのない時代と言われますが、そんな答えのない時代だからこそ、コンセプトブックを使って、自分たちでこんな未来を叶えたいな、自分にはこんなことができるかなと主体的に考えてもらうことができるコンセプトブックの作りも私はすごくいいなと思っています。今後、コンセプトブックを活用しながら、どのような使い方ができるのか考え続けながら、ビジョン推進に関わっていきたいと思います。
自分で、みんなで、しなやかにつくるまちの未来
おふたりにお話を伺うと、ビジョン策定に関わる中で、はじめて知ることや気づきがあり、自分自身の中に変化が生まれたり、今までとは違う捉え方や考えを持ったりするようになっていること、そして何よりポジティブな気持ちを持たれていることが印象的でした。
みんなで目指す未来の姿を大事にしながら、さまざまな思いや関わり方で未来の「こうありたい」を実現していく。その思いを育てていく中で、新しい変化やつながりから、新しいアクションが生まれていくかもしれないと考えるとなんだかワクワクしてきました。
答えのない、変化が激しい時代に、しなやかに未来を目指す姿勢、こうありたいという望みだけでなく、自分ごととして身近な行動を考えるきっかけも散りばめられたコンセプトを持ったこのプロジェクトがとても素晴らしいと思いました。
コンセプトブックから自分でできるアクションを共有できるようになっているので、あなたのアクションを考えて、投稿してみませんか?
また日野市では、すでに自分のため・誰かのため・まちのために何かしようと活動しているヒトの想いやストーリーを紹介する記事をnoteで配信中ですので、ぜひこちらも御覧ください。