日本遺産とは?
皆さんは「日本遺産」をご存知ですか? 知床や屋久島などが認定されている「世界遺産」や、授業で習う「国宝」「文化財」はよく聞くけれど、「日本遺産」はあまり耳にしたことがないなぁ、という方も多いのではないでしょうか。
「日本遺産」事業は平成27年(2015年)より始まった文化庁による取り組みです。
これまで文化財は「史跡」や「天然記念物」などの種類ごとに国宝や重要文化財などに指定して保存・活用が行われてきました。つまり、「ある建物」「ある動物」「ある出土品」というように、点で保存する対象を指定していたんです。 対する「日本遺産」は、地域の中で文化財をより効果的に保存・活用するため、地域に点在する遺産と地域の歴史や特色をストーリーとしてまとめ、整備・活用し発信していくものです。従来の「点」での指定に対して、地域の歴史や文化と文化財を包括した「面」の形で指定し、支援することで、地域のブランディングや活性化に繋げよう!ということなんですね。
「日本遺産ポータルサイト」では、それぞれがどんなストーリーか、どんな文化財たちで構成されているかを知ることができますよ!
【11/4・5開催】全国104の「日本遺産」が桑都・八王子に集結。注目のイベントをチェック!
2023年10月現在、日本遺産には全国から104のストーリーが認定されています。 この多摩地域でも、令和2年(2020年)6月に八王子市の「霊気満山 高尾山 ~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」 が認定されました。養蚕と織物で栄えた街の中で、唯一「桑都」と称された八王子をとりまく歴史と文化を、様々な側面から語るものです。
この桑都物語について八王子市のご担当者さんに詳しく伺った記事は、イベントのお知らせの後に!
そんな八王子市内各所で2023年11月4日(土)・5日(日)の2日間にわたって開催されるのが「日本遺産フェスティバル in 桑都・八王子」。全国104の「日本遺産」が集まり、日本の文化・伝統を未来へ発信するイベントです。
当日は各日本遺産に関する展示や伝統芸能の公演、体験イベントや名産品の販売なども実施され、国内各地の多様な歴史・文化に一度に触れられる貴重な機会! 桑都・八王子についてもっと深く知りたい!という方には、11/5(日)に桑都の見所となる文化財を巡るツアーもありますよ。 (※ツアーは要予約 詳しくはイベントWebサイトへ)
メイン会場となるのは、多摩地域最大級の展示会や見本市に活用できる施設として昨年八王子市に開業したばかりの「東京たま未来メッセ」。 ぜひこの機会に訪れてみてくださいね。
日本遺産フェスティバル in 桑都・八王子
開催日 | 2023年11月4日(土)・5日(日) |
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時間 | イベント会場ごとに異なります。詳しくはWebサイトまたはチラシにてご確認ください。 |
場所 | メイン会場:東京たま未来メッセ オープニング会場:J:COMホール八王子 サテライト・関連イベント会場:JR八王子駅南口 とちの木デッキ~えきまえテラス/アイロード/ユーロード/桑都テラスほか |
主催 | 文化庁、日本遺産連盟、日本遺産「桑都物語」推進協議会、八王子市 |
共催 | 観光庁 |
お問い合わせ | 日本遺産「桑都物語」推進協議会事務局 |
「霊気満山 高尾山 ~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」 のストーリーとは?
イベントのご案内でも少し触れましたが、東京都で初めて日本遺産として認定された、八王子市の「桑都物語」のストーリーをご紹介しましょう。
かつて養蚕や織物産業が盛んだったこの地は、桑の都「桑都(そうと)」と呼ばれていました。
絹織物に使う糸は蚕(かいこ)が繭を作るときに吐き出す糸を紡いで作られますが、蚕の餌となる桑の葉を育てるための桑畑が広がる様子が「桑の都」の呼び名のもとになっています。
そんな桑都・八王子のお話は戦国時代末期、関東屈指の山城「八王子城」から始まります。
この頃、関東の覇権を握った北条氏の名将・北条氏照(ほうじょう うじてる)が現在の八王子市の場所に城下町を築きました。
この場所は八王子の名の由来となった八王子権現(はちおうじごんげん)を祀る聖地であり、向かいの高尾山が天然の要塞として機能する軍事的に重要な土地でもありました。さらに、高尾山に現在も残る薬王院は戦の神である飯綱大権現(いずなだいごんげん)を本尊としており、氏照は武運を祈り高尾山を篤く庇護していました。
その一方で、氏照が力を注いだのが城下町の整備です。
「八王子織物」は氏照が八王子城へ移る前の城である滝山城の城下町が起源となりますが、八王子城下にもそれが引き継がれました。八王子城が落城して平和な江戸時代が訪れた後も、この街は江戸西方の防衛や交通の要衝・八王子宿として整備されます。
その後八王子宿は絹産業を基盤とした甲州道最大の宿場町へと発展しました。幕末から明治にかけては大量の生糸がこの地に集められ、「絹の道」を通って横浜方面へ輸出のために出荷されていったのです。
こうした絹産業の発展に伴って生まれた伝統工芸品「多摩織(たまおり)」や、機織りと共に培われてきた技術・職人の想いは現代にも受け継がれています。
さて、戦の神を祀る髙尾山薬王院への信仰は、江戸時代の絹産業とも深いつながりがありました。
養蚕農家らは絹織物に欠かせない大切な蚕を守ろうと薬王院に「蚕守」のお札を求め、絹商人も八王子宿周辺や江戸の問屋に配札を取次いだことで、高尾山の信仰圏が拡大したのです。
高尾山を信仰する人々が請願成就の返礼として奉納したのが杉の苗木でした。これは高尾山信仰の大きな特色として受け継がれ、信仰と共に自然を守られることで、現在にも残る霊気に満ち緑豊かな高尾山の空気感を生み出しています。
北条氏照は横笛の名手でもあり、文化的・芸術的な素養も持ち合わせた人でした。
地域で舞われる獅子舞を好んだといわれ、城跡からの出土品や趣のある庭園の跡からもそれが感じ取れます。
桑都としての発展により、地域の文化も豊かに花開きます。江戸時代には絢爛豪華な山車作りが競われ、明治期以降の花街では八王子芸妓が絹商人をもてなしました。他にも江戸の木遣唄、八王子車人形など数々の伝統文化が現在も欠かすことのできないものとなっています。
八王子市で「桑都物語」を体感しよう!
そろそろ、桑都物語に登場した数々スポットや伝統文化を実際に見てみたい!体験してみたい!という方もいらっしゃるのでは……?
ご安心ください! ここから注目のスポットやイベントをご紹介していきます。
桑都物語Webサイトで構成文化財30件をまとめて紹介していますので、そちらからもチェックしてみてくださいね。
まず押さえておきたいのが、ハイキングスポットとしても人気の高い「高尾山」です。
初心者やファミリーでも訪れやすく、都心部からのアクセスも良いことから、多くの人が訪れます。
途中の展望台までケーブルカーやリフトで登ることもできますが、「桑都物語」の霊気に満ちた空気を味わいたいなら、装備をしっかり整えて登山口から山登りに挑戦してみるのもおすすめ。
ストーリーに登場した薬王院は頂上へ向かう登山コース1号路の途中にあり、火渡り祭や節分会などが開催されます。
ケーブルカー高尾山駅周辺には大人気のビアマウントをはじめとする飲食店やおみやげ屋さんも充実していますし、麓には高尾山の自然について知ることができる「TAKAO 599 MUSEUM」もあります。
ストーリーの始まりとなった八王子城は、現在石垣や古道が整備され、城跡を見学できるようになっています。
ボランティアによるガイドや、ガイダンス施設もあり、八王子城の歴史や全体像を知ることができます。
八王子市の絹織物や養蚕業について知るなら、「絹の道資料館」や実際の「絹の道」を訪れてみましょう。
市内のアンテナショップや観光案内所、道の駅などで八王子織物の商品も手に取ることもできます。
SHOP BENECK(八王子織物工業組合アンテナショップ)
多彩な伝統文化や郷土芸能が今に伝わる八王子市。
豪華な山車が見所の「八王子まつり」(8月)、市内各地で行われる獅子舞や木遣(出初式)など、イベントの時期に合わせて訪れると、その活気を直に感じることができるはずです。
八王子芸妓による舞踊や八王子車人形・説経浄瑠璃なども髙尾山薬王院の節分会など市内のイベントで楽しむことができます。
八王子市指定無形民俗文化財「獅子舞」祭礼、「木遣」情報(八王子市Webサイト)
桑都物語をはじめとする、日本遺産に触れられるイベントが開催!
>>> イベントの詳細はこちら(日本遺産フェスティバル in 桑都・八王子 イベントページ)
これからの「桑都物語」
八王子城から始まり、高尾山信仰や絹産業の発展と共に育まれた桑都・八王子のストーリー。日本遺産としてまとめられた物語は、これからも未来に語り継がれ、新しい物語がまた紡がれていきます。
小学生や大学生がこれからの桑都・八王子について考えたり、デジタル技術やサイクリングといった現代的な手法で桑都に触れる機会を作ったり……。
長い時間紡がれてきた桑都物語に触れた人たちがその魅力を共有していくことで、新しい視点や感性・文化を伴って未来へ引き継ぐ。ただ文化財を保護・継承するだけではなく、地域の大きな魅力として膨らませ、残していくという、新しい形での取り組みに今後も注目です!